チェンバロ奏者 八百板正己 のホームページ

チェンバロ日誌(2005年6月)

チェンバロ日誌
6月7日(火)
 一昨日は一連の凱旋公演の皮切りでしたが、 一週間前に大阪で習ってきたことが早速大きな成果となって現れたようです。 終演後にお客様から聞いた話では、 「今までで一番豊かな音だった」 「表現が自然で歌心に満ちていた」 「2時間の間ずっと聴衆のだれもが集中していた」 とのことでしたが、 大阪では直接そのようなことを習ったのではなく、 とにかく良い音を出すテクニックと、 タッチ(鍵盤の押し方)で幅広い強弱と多彩な音色をあやつるテクニックを学んできたのです。 「音符が2つ並んでいればそれらを同じ音量、音色で弾くことはない」 ということをしつこく実践させられ、 それを表現するためのテクニックを教わった結果として、 出てくる音楽全体の密度が高まったと考えればいいのでしょうか。 私自身は教えを実践するので精一杯でしたので、 まさかたった一週間でそんなに違う演奏ができたとは気付かなかったのですが。
 私の言うことが嘘か本当か、 同じ内容の演奏会がまだまだ続きますのでどうかご自分の耳でお確かめいただければ嬉しいです。 そして、私自身はその教えをじゅうぶんにマスターするのに最低2年はかかると思っていますので、 一週間で出始めた成果がその後2年かけてどのように成長してゆくのか、 今後の演奏会もどうぞお楽しみに!
6月9日(木)
 昨日は築170年の古民家でチェンバロを演奏してきました。 場所は三島郡和島村の道の駅「良寛の里わしま」の中に移築された地域交流センター「もてなし家」といい、 三島郡の先生方の研修会での演奏を村の一般の方々にもお聴きいただける形で行なわれました。 すぐ後ろを国道が通っているためにトラックの音などが聞こえる状況ではありましたが、 1時間ほどの演奏のあいだ皆さんとても集中してお聴きくださいました。
 私のすぐ目の前に数人の小学生がいて、特に一人の男の子がゴソゴソ動いたりして落ち着きがなく、 「子供が来るのだったらもっと短くて楽しい曲を持ってくればよかったか」 と気になってなかなか集中できなかったのですが、 いまさら仕方がないので子供のことは考えないようにして演奏を進めていったところ、 プログラムの最後のほうでは気がつくとその子もじっとして聴いてくれていました。 後で先生方に伺ったところ、 その子は授業中もいつも落ち着いていることができないのに、 今日はこんなにも長い時間(子供にとっての1時間は大人の数時間に相当します) 静かに聴いていたので驚いてしまったとのこと。 そのようなお話をいただくのはまさに音楽家冥利に尽きます。
 理屈ではなく直感で音楽を受け入れる子供たちの前で演奏するのは、 一切のごまかしが効かないのでかなりの試練でもあります。 昨日の演奏でその子がはじめのうち落ち着かなかったのも、 私が弾き始めの瞬間から全身全霊で音楽に打ち込めていなかったことを反映してのことであって、 後半になって静かに聴いてくれたことだけを喜んでもいられないのです。 真の大演奏家は最初の1音だけで聴衆を黙らせるといいますが、 最初の1音とはいかなくてもせめて最初の1曲から会場の雰囲気を作り変えるように努めなければいけません。
6月13日(月)
 4泊5日の横浜公演から帰ってきました。
 9日(木)は午後4時半過ぎまで見附のスタジオで準備や練習などをして、 あとはひたすら高速道路で横浜の親の家に向かいました。 6月7日の項に書いたテクニックにしたがって肩から先を完全に脱力することを車の運転にも応用したところ、 今まで何度もかよった同じ道なのに疲れ方が半分以下で、 あまり休憩を取らなくて済んだ分早く到着しました。 それにしても軽ワゴン車で横浜までの高速道路の旅は騒音で耳が疲れますし、 ただでさえパワーがないところに楽器の重さが加わって加速が効かないので神経を使います。
 10日(金)の演奏は会場のすばらしさとお客様のレベルの高さに助けられて「最高!!」でした。 旭区民文化センター(サンハート)にある音楽専用のホールは約100席で、 天井が高く音響はすばらしいしインテリアもリッチだし空調はきわめて静かで優秀だし、 ここで弾くだけで普段の自分の能力以上のものを引き出してもらえるのです。 それに加えて今回は先週の新潟公演での手応えから気持ちがいつになく前向きでしたし、 お客様がすばらしい集中力で聴いてくださったので余韻の細部までが会場の隅々まで届くようでした。 自分の楽器の音がこれほど大きく感じたことは無かったかもしれません。 一方で会場の響きがあまりに美しいので調子に乗ってリハーサルを全力で弾き過ぎてしまい、 開演前に精神が疲れ果てている自分に気づいて慌てて15分ほど横になりましたが、 後半のプログラムの途中でふと頭が真っ白になりそうになり焦りました。 あまり頭を使いすぎると自衛本能が働くのか、目で追っている楽譜がただの模様の羅列に見え、 自分が出している音も認識できなくなることがあるのです。 幸い気を取り直して無事でしたが。
 11日(土)は楽器が車に積んだままで練習もできないので、 上野の東京国立博物館に「ベルリンの至宝展」を見に行きました。 ボッティチェリもラファエロも本物の絵が持つ力はすごかったです。 前に立つとそのままいつまでも身動きできずに釘付けにしてしまう力を持っています。 本物の絵と図録の違いは、もしかすると生演奏と録音の違いよりも深刻かもしれないと思いました。 結局先史時代の遺物から近代絵画までの160点を鑑賞するのに5時間を使いました。
 12日(日)は金沢区の長浜ホールです。 横浜市が管理する公共施設ではありますが、 本格的な演奏会の開催を前提とした設計でないのがつらいところです。 サンハートとは雲泥の差なのですが、実家からそう遠くないことと、 あまり人気がなくて会場予約のコンピュータ抽選で週末でも当選することから使っています。 (サンハートは平日でもなかなか取れません。) 広さはサンハートの音楽ホールと同じですが、 音響があまり良くない(高い天井にいった音が戻ってこない)のと、 何といっても致命的な欠点が空調です。 2年前には真冬の演奏会のリハーサル中に空調が故障して、 そのまま寒さに震えながら本番も演奏したという事件も経験した問題の空調です。 音がうるさくて演奏中は止めないといけないので途中休憩までの1時間に室温が数度も変わり、 調律が途中から狂い始めるのにいつも苦労させられてきました。 今回は会場到着と同時に技術スタッフから「今日は会場の湿度が80%もあって、空調を入れているけれどなかなか下がらない」と告げられます。 私が横浜に来るよりも梅雨入りのほうにわずかに先を越されてしまいました。 ここの空調は室温が設定温度まで下がると送風に切り替わり、 換気のために引き込んでいる外気がどんどん湿気を持ち込むのです。 鍵盤は湿気でべっとり濡れるし、 楽器が変形して弦への爪のかかり方が狂って空振りする爪が出てくるし、 だいいち音はよく鳴らないし、 これでは演奏にならないからとリハーサル中に設定温度を一時的に22度まで下げてもらいました。 それでどうにか鍵盤も乾いてきたと安心したのも束の間、 室温が22度に達したためにまたしても送風に切り替わり、 元の湿度に戻ってしまいました。 あとは空調を止めて室温が上がるのを待ち(22度ではお客様が寒いですから)、 そのことで相対的にいくらかでも湿度が下がるのを期待しました。 演奏が始まっても、指は濡れた鍵盤に引っかかるし (チェンバロでは指と鍵盤との摩擦を利用した微妙なタッチが要求されます)、 寒いやら湿度が高いやら二酸化炭素濃度が高い(空調を止めているため)やらでお客様も私もなかなか集中できません。 どうにか従来の演奏会程度の水準は維持したと思いますが、 先週そして2日前に飛躍的にいい演奏をしただけに納得がいきません。 次からは時期をよく選ばないといけませんね。 4月と10月なら何とかなるでしょうか。
 今日13日は朝9時過ぎに横浜を出て、 首都高速で恒例の渋滞にはまりましたが、 わりあい順調に来たので湯沢から一般道に下りました。 時間さえ許せば軽ワゴン車では一般道のほうが疲れません。 午後4時過ぎにスタジオに着き、 それから延々と残務整理でもうこんな時間(夜10時)です。
6月21日(火)
 7月3日の新潟オルガン研究会第40回例会記念演奏会で弾く自作自演の曲が今頃やっと完成しました。 いつもは他のメンバーがあまりレパートリーにしていない初期バロックなどの古い曲を任されることが多いのですが、 第40回記念に幅広い年代のオルガン音楽を集めようということから、 21世紀の曲ということで自作自演を名乗り挙げてしまったのです。 主題に用いたメロディーは季節に合わせて日本の歌「夏は来ぬ」です。 五音音階による主題を西洋の和声進行に適合させるのに苦労しましたが、 それでも4度と7度の2種類のストレッタ (主題の途中で別の声部が主題を重ねる作曲技法)が可能であり、 また「パッヘルベルのカノン」と「ヘンデルのヴァイオリンソナタ ニ長調」 の旋律がうまく主題に重ねられることを見出しました。 一見真面目を装って、でも本人はかなり遊んだつもりです。
6月23日(木)
 今日は新潟日報事業部主催の趣味の会という集まりで、 巻町のカーブドッチ・ワイナリーでチェンバロを演奏してきました。 ここでは年に2回のペースで私の自主公演をずっとおこなっていますが、 今回は純粋に演奏者として呼ばれたわけです。 演奏前の料理は新潟日報の方々と一緒のテーブルでいただきました (途中で調律のために席をはずしましたが)。 いつもはお客様が料理を召し上がっている時間は厨房脇の控室(というか更衣室)に隠れて、 時々調律のために出て行く以外はコンビニおにぎりをほうばったり横になったりと、 とてもお客様には見せられない過ごし方をして力を蓄えるのですが、 今日はディナー開始早々に「演奏者の八百板さんも後ろの席で皆様とご一緒にお食事を召し上がっています」と紹介されてしまったので、 この時間からすでに舞台モードで気が抜けません。 せっかくの料理もゆっくり味わうことができなくてもったいなかったです。
 演奏が始まると、70人ほどのお客様のほとんどがチェンバロを聴くのは初めてとのことで、 興味津々といった感じで好意的に受け入れていただきました。 自分が受け入れられているというのは実に心強いもので、 同じ曲を他で弾いたときよりも深く音楽に入り込めたように思います。
 この会場には小さいながらもパイプオルガンがあり、 私の自主公演ではチェンバロとオルガンを弾き分けているのですが、 この春から修理に出ていたので今回はチェンバロだけで準備をしていました。 それがつい先日、思ったより早く修理が終わったので、 お客様には内緒にしておいて後半の1曲目をいきなり大音量のオルガンで始めてみました。 次回9月23日の演奏会からは再びこのオルガンを本格的に使いますのでどうぞご期待下さい。
6月30日(木)
 今プリンタが修理に出ています。 演奏会のたびに何千枚というチラシを自分のプリンタで出力し続けたために、 買ってから数年しかたたないのに「内部部品の交換時期」というエラーで動かなくなってしまったのです。 ちなみに先月からはチラシ印刷は県外の格安業者にオフセット印刷を外注しているので、 今後はもうそういうこともないでしょう。
 いつでも使えるのが前提になっているものが10日も手元にないといろいろと不便が出てきます。 私のチェンバロ教室では数十名の生徒さん向けに「チェンバロ教室通信」というものを毎月発行して、 今月のレッスン曲、今月のチェンバロ関係演奏会の報告と感想の投稿、来月の演奏会案内などをお知らせしているのですが、 今日が発行日なのにしばらく作業に取り掛かれません。 教室の皆さんは来週半ばまでお待ち下さい。


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