チェンバロ奏者 八百板正己 のホームページ

チェンバロ日誌(2006年2月)

チェンバロ日誌
2月2日(木)
 今日は2つ目の「スカルラッティ・プロジェクト」についてお話ししましょう。
 スカルラッティはバッハと同じ年にイタリアで生まれ、 生涯の大部分をスペイン王妃のチェンバロ教師として活動したことから、 500曲をこえるチェンバロ独奏ソナタを残した事で知られています。 演奏には通常のチェンバロ曲をはるかに超えた技巧を要求されるものも多く、 恥ずかしながら今までの私はそのような曲と正面から向き合うことを避けてきたと言えなくもありませんでした。 しかし自分が苦手意識を持っているスカルラッティの特別に技巧的な音型も、 どうやらピアノを専門に学ぶ人たち(小さいときからその種の音型を当たり前のように訓練させられてくるそうで) にとっては大して苦にならないらしいと気付いた時、 これは何としてでも苦手意識を返上してやりたいと意欲が湧いてきたのです。
 スカルラッティのソナタはあまりに膨大でどこから手を付けたらいいのか迷いますが(楽譜は全部持っているのでなおさら)、 スカルラッティの研究者として知られるカークパトリック(作品に付けられたK番号は彼の頭文字です) が厳選した60曲が全音楽譜出版社から2分冊で手に入るので、 まずはこれらを弾けるようにするのが順序だろうと考えて、 今回はその60曲を攻めることにしました。
 毎日1曲ずつ譜読みをし、 10日間弾いてもうまく弾けなかった部分は「要克服音型」と称して練習を継続し、 3ヶ月弱で60曲中の苦手な音型をすべて拾い出した自分だけの練習帳ができる計画です。 同時にカークパトリックお勧めの60曲が今後の演奏会のレパートリー候補となるわけです。 計画は立てても一日中外出して練習できない日もあって実際には毎日1曲というのはかなり厳しいですが、 現在20曲を超えた段階で、春の演奏会シーズンが始まるまでに完了したいものです。
2月6日(月)
 昨日はこの冬唯一の演奏会が終わり、今日は暖かくて良い天気です。 ということで、今日は見附チェンバロスタジオの雪下ろしをしました! 病み上がりで体調はじゅうぶんではありませんが、今夜からまた雪とのことなのでやってしまいました。 間借りしている建物自体は鉄骨構造で雪下ろしの必要はないのですが、 私が借りている側に長い庇があって、そこは下ろさないと潰れると大家さんから言われています。 2年前までの栃尾暮らしのために雪下ろしは手馴れたものです(豪雪地の栃尾では雪下ろしと言わず「雪掘り」と言いますが)。 1m以上積もっているうち上のほう15cmを除いて全部「ざらめ雪」で、 スノーダンプで掘る端から崩れていくのであまり楽ではありません。 こんなところからも見附は栃尾より暖かいんだなと感じます。 無理をせず気持ちよく汗をかきながら2時間余りできれいに下ろしました。
2月8日(水)
 今日は1月23日の日誌で紹介した「鳥の羽プロジェクト」の経過報告です。 イタリアから羽を取り寄せる際に「爪1列(61鍵なので61本)交換するのに羽5〜6本」と言われて、 この楽器は3列あるので余裕をみて20本買ったのですが、 今のところ爪40本弱を羽2本半で交換できたのでだいぶ率がいいです。 もっとも、今回はすべての爪を交換するので、
・まず爪を整形して(厚さは全く落とさず)
・そのまま使える一番低い音に使う
という、無駄の出にくい効率の良い作業だからでしょう。
 イタリアから届いた羽は以前知人から分けてもらった特大のワシの羽よりは小ぶりなものばかりで、 最低音の爪を作るには弱いのでどうしようかと悩んでいたのですが、 通常は使わないと考えられる羽の根元近く(軸の表面が平面でなく丸まっています)を上手に使うと、 丸まっていることも作用してかなり剛性のある爪が作れることに気づき、、 最低音にちゃんと使えました。
 また、羽の「使える部分の範囲」は見かけの幅では判断できないことも分かりました。 見掛けは細くても削ってみると肉厚だったり、 その同じ幅のままある所から急に柔らかくなったり、 また先から元に向かって直線的に剛性が高くなるわけでもなく、 部分的に波があるようでもあります。
 肝心の音ですが、プラスチックよりも硬くて薄いので、 高周波成分を多く含むいわゆる「銀の鈴」といった感じです。 ただし薄すぎるものはペナペナした安っぽい音になるので、 音色を聴きながら場所を選び、 時には羽軸の内側のフワフワの部分を少し残して高周波成分を減らすといった工夫も使っています。 逆に材料が少し柔らかめのときは、 剛性を保ったまま高周波成分を増やすために、 爪の先3分の1くらいまでだけ薄めに削るといった工夫も有効です。 これらは実際に弦をはじかなくても、 ジャックに爪を挿して指ではじいてみた音色だけでもかなり予想が付き、 作業時間の短縮に役立っています。
 1月23日の日誌で「刃物がすぐ切れなくなって研ぎ直すのに時間が取られる」ことを書きましたが、 当初は慎重に少しずつ何回にも分けて削っていたものが今では勝手が分かってザクッと削れるので、 だいぶ刃が長持ちするようになりました。
2月18日(土)
 「今後の演奏予定」に一つ演奏会を追加しました。 4月4日に長野県までチェンバロとヴァージナルの2台を車に積んで行ってくるのです。 世界標準の音の高さがa=440Hzであることから4月4日がピアノ調律の日と決められているそうで、 日本調律師協会の主催でこの日に全国的にコンサートなどのイベントが行なわれることの一環です。 私と地元のピアニストの共同で400年にわたる広い時代の鍵盤音楽を一気に楽しんでいただこうというこの企画は、 実は昨年の4月4日には新潟でも行いました。 そのときの評判が良かったので今年は長野県でも開催することになった次第です。 今年はチェンバロとピアノの移行期のハイドンで、 同じ曲を2つの楽器で聴き比べてみようという実験も行います。 このホームページをご覧の方で長野県内にお友達のいらっしゃる方は、 全国的にも滅多に聴けないユニークなこの企画のことをぜひ教えていただければと思います。
2月20日(月)
 急きょ明後日にチェンバロの依頼演奏をすることになりました。 内々に打診を受けたのが一昨日、正式な依頼が今日という急な話です。 三条ロータリークラブの会合での30分間の演奏なのですが、 このくらいの時間の演奏ならばいつでも対応できるようにしてありますので大丈夫です。 現在進行中の2つのプロジェクトは一時お預けで、 今日は選曲とプログラム原稿の作成を行い、 本番に向けた練習を開始しました。
2月23日(木)
 昨日の演奏は日本料理屋の座敷での演奏でした。 お膳が40人分ほどコの字型に並べられた典型的な宴会スタイルです。 会場下手にステージもありますが、 上座の主賓席からあまりに距離感があるのと、 会場との一体感が得られないことから、 畳の上に楽器を置きました。
 控えの間で待機していると、 乾杯の後20分ほどして会場がだんだん賑やかになってきてから呼ばれたので、 「これはちゃんと聴いてもらえるだろうか」と心配になりましたが、 司会の方が「生のチェンバロを聴ける機会はとても貴重なもの」 「チェンバロの音はとても小さく繊細なので、お話はひそひそ声で」 「携帯電話は鳴らないように」とおっしゃってくださると、 私の登場とともに一気に演奏会の雰囲気です。 特に最後の「携帯電話」は効いたようです。 演奏が始まっても興味津々といった趣で真剣に聴いてくださり、 お酒を注ぎあい食事しながらにもかかわらず、 宴会の余興とはとても思えない集中した雰囲気です。 30分の演奏が終わって楽器を撤収しようとすると、 ほとんどの方が楽器の周りに集まってきて、 私もいろいろ質問を受けたり、名刺をいただいたりしました。
 この日のお客様はみな企業の経営者の方々で、 専門外のことに対しても関心を向けて下さる姿勢と、 宴会という場でも羽目を外さない節度はさすがだと感じました。


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