チェンバロ奏者 八百板正己 のホームページ

チェンバロ日誌(2006年9月)

チェンバロ日誌
9月2日(土)
 9月9日に新潟のりゅーとぴあスタジオAで第2回新潟古楽フェスティバルが開催され、 昨年同様私も一時間の枠のプロデュースを任されて出演するのですが、 出演者数30名、曲目も昼から夜まで大変な量で、 「こんなにたくさんの情報を手入力でホームページに載せるのはとりあえず明日にしよう」 を繰り返すうちについにチケットが完売してしまったようです。 私からの情報提供を頼りにしていらっしゃった方にはここでお詫びいたします。
9月8日(金)
 ただいま時刻は午前2時。 まだまだ見附のスタジオから帰れません・・・。 あと11時間後には古楽フェスティバルの会場準備が始まります。 私がプロデュースする枠のプログラムをプリンタで印刷しているのですが、 文字だけなのに300部の両面カラー印刷に6時間以上もかかるとは。
 実は原稿ができつつあった8時間ほど前(夕方)に雷が落ちて停電になったのです。 作業途中でデータを保存していなかったので「今までの3時間の苦労が水の泡?」と焦りましたが、 停電の10分くらい前のデータが仮の名前で自動的に残っていました。 私のパソコンは古いですが、この程度には賢いのですね。 これが水の泡だったら今頃まだ印刷は半分も進んでいなかったでしょう。
 印刷はまだ終わりそうにないので、 練習はやめて今から楽器を車に積みます。
9月15日(金)
 9月9日に新潟のりゅーとぴあスタジオAで行われた第2回新潟古楽フェスティバルの余韻に浸る間もなく、 (でも少しだけ浸りましょう。 途中3回の休憩を挟みながら午後1時から7時まで続けられたフェスティバルのうち、 私は最後の1時間「エリザベス朝の栄華」をプロデュースしました。 オルガンの序奏と宗教合唱曲、チェンバロ連弾、リュート独奏、チェンバロ独奏、 リコーダー合奏に乗せて16世紀風の衣装を着けた踊り手によるルネサンス舞踏、 ヴァージナル伴奏によるシェイクスピア劇中の歌曲、 と様々な音楽がシェイクスピアの戯曲「夏の夜の夢」の朗読を間に挟みながら次々と万華鏡のように現れ、 最後の世俗合唱(マドリガル)でこのステージの演奏者16名の総出演で華々しく幕を閉じました。 分刻み(場合によっては秒まで表示)のタイムテーブルに合わせて次々と登場する演奏者を私が即興演奏でつなぎ、 宗教合唱曲では歌いながら指揮をし、 ルネサンス舞踏とマドリガルでは太鼓を叩きながらアンサンブルを統率しました。 途中に解説を挟んだりせず、 舞台上の椅子や譜面台を動かすこともしないで音が途切れることなく続くステージというのはなかなか大変で、 タイムテーブルの作成に5時間もかかったほどでした。 出演者16名が事前に全員集まって練習することは不可能と思われたので、 リコーダー合奏、舞踏、合唱といったユニットごとの練習と前日の通し稽古だけで形になるように、 なおかつお客様には入念なリハーサルをおこなった有機的な構成に感じられるよう工夫する必要がありました。 結果として舞台は大成功でしたが、私は自分のソロ演奏会の何倍も疲れました。 おっと、こんなに長く浸ってしまった・・・)余韻に浸る間もなく、 チラシの作成と、チケット取扱店へのチケット届けと、ダイレクトメールの発送と、 クラヴィコードの練習とメサイアの通奏低音の練習と、来月以降に弾くモーツァルトの練習に突入です。 すっかりサボっていた「今後の演奏予定」のページの入力にやっと取り掛かりましたが、 11月の初めまで入力したところで今日は力尽きました。
9月16日(土)
 やっぱりもう少し古楽フェスティバルの余韻に浸りたくなりました。 このフェスティバルは総勢30名出演という規模で、 しかも普段は別々に活動している多くの団体の枠をあえて取り払って、 皆で協力しあって多彩なプログラムを組んだのです。 出演者の多くは他に仕事や家庭を抱えて忙しい中で練習を積み重ねてきましたが、 全員が揃って練習できたのは本番前日あるいは本番当日という状況の中で、 6時間の舞台があれだけ順調に進行したのは本当に素晴らしいことです。 私が担当した「エリザベス朝の栄華」について言えば、 舞踏の場面の音楽を全面的にお願いしたリコーダー合奏の練習には私は一度も顔を出せずにお任せでしたが、 前日のリハーサルで初めて演奏を聴いて期待以上のレベルに胸が熱くなりましたし、 その他すべての音楽も事前の少ない練習のたびに急激に完成度が高まっていく勢いの延長で本番を迎えました。 何でも信じて任せられる人たちのおかげで実現したステージであったのに、 私が一番かっこいい役で目立ってしまって申し訳ないほどです。
9月18日(月)
 おっと、気がつけばもう午前3時。 古楽情報誌「アントレ」に掲載していただく古楽フェスティバルのレポートを書いているのです。 何か始めるとついやめられなくなってしまう悪い癖。 明日、ではなくてもう今日ですが、 あと15時間後には新潟古町のお店でクラヴィコードを弾くことになっています。 寝不足は演奏の敵、明朝は寝坊します。
9月22日(金)
 今日は見附のスタジオで講習会「バッハ最愛の楽器クラヴィコードと彼の鍵盤教授法」が行われました。 気になる人にはものすごく気になる内容のはずだという自負はあったものの、 何しろチェンバロの何十分の一(それとも百分の一?)という知名度の低い楽器ですから、 果たしてお客様はいらっしゃるのだろうか?という不安はずっと続いていました。 が、昨日の朝刊に写真入で大きく紹介されてから問い合わせの電話がいくつもあり、 スタジオの広さにちょうどいいお客様が集まりました。
 急にいらっしゃったお客様の中には日本クラヴィコード協会会長である松本彰氏の姿もあり、 驚くと共に恐縮してしまいましたが、 途中の体験演奏と休憩の時間には氏の周りに人の輪ができて、 興味深いお話をたくさん披露してくださいました。 本当にささやくような音のクラヴィコードの前に座った受講者の皆さんの反応はまちまちで、 おそるおそる弾くために小さい音がますます小さくなる方も、 逆に弦を痛めそうなほどかなり思い切って弾くので私が止めに入らないといけない方も、 少し触って「これは大変な楽器だ」と言ってすぐ立ってしまう方も、 逆にいつまでもいつまでも名残惜しそうに講習会終了後もぎりぎりまで弾いていった方もいらっしゃいました。 (ちなみにその方は、この短い時間にもクラヴィコード奏法のコツを掴みかけたようで、 だいぶ安定した通る音で演奏していらっしゃいました。)
 あさってのコンサートが終わるとこの楽器は返却しなければなりません。 悔いの無いように残された時間を有効に使って、コンサートを大成功させたいです。
9月24日(日)
 今日は見附のスタジオでコンサート:「クラヴィコードとチェンバロで聴くバッハ名曲集」が行われました。 新聞効果は絶大で、通常は定員20人としているところに28人ものお客様が!! 急きょ椅子とスリッパを家から追加で調達して、 使わない楽器は全部隣の部屋に運び出して何とか椅子を全部並べました。 これだけの人が部屋に入ると温度と湿度がどんどん上がって大変なのですが、 今日は秋晴れのとてもさわやかな天気で、 窓を少し開けておくと湿度の低い涼しい風がちょうどよく吹き込んできて助かりました。
 今はもうスタジオにクラヴィコードはありません。 明日からは週末のメサイアに向けて最後の調整、 通奏低音漬けの一週間が始まります。
9月29日(金)
 ヘンデルのオラトリオ「メサイア」の演奏会に向けてチェンバロを個人練習するのは今日で最後です。 明日の昼に長岡リリックホールにチェンバロを搬入して夜までリハーサル、 あさっては朝からリハーサルで午後1時開演です。
 メサイアは合唱と独唱者とオーケストラのための47の楽章からなる3時間の大作で、 キリスト降誕の預言から受難そして復活までの生涯をたどる物語になっています。 歌詞対訳を読みながらこの曲を聴くと、 喜ばしいところは本当に嬉しくなり、 悲しいところは本当に泣きたくなります。 物語の進行にすっかり心を奪われ、 4分の3ほど進んだところにある「ハレルヤ」や、 終曲の壮大な「アーメン」にたどり着くと、 「とうとうここまで来た!」という感慨で胸が一杯になります。
 今日は最後の仕上げとして1曲目から順に歌詞をよく読みなおしながら練習を進めましたので、 昼に練習を始めて「ハレルヤ」に行き着いたのが夜の8時、 そして終曲の「アーメン」はつい先程、夜中の11時でしたが、 私が聴衆としてこの物語の進行に心を奪われる時以上に、 1曲ごとに「とうとうここまで来た!」と感動しっぱなしでした。 ヘンデルは本当にすごいです。
 チェンバロはバロック音楽の土台となる「通奏低音」というパートを受け持つので、 その名の通り3時間まったく休み無く弾き通します(多少は休符もあります)が、 おかげですべての楽章のすべての小節の美しさに演奏者として係わることができます。 合唱の楽章ではチェンバロの小さな音ではいったい何を弾いているのか客席にはさっぱり聞こえないらしく、 特に「ハレルヤ」と「アーメン」でトランペットとティンパニが加わると弾いている自分でも音が聞こえなくなりますが、 それでも気持ちだけは精一杯大きな音で合唱に参加しているつもりで弾くのがまた幸せでもあるのです。


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