チェンバロ奏者 八百板正己 のホームページ

チェンバロ日誌(2009年4月)

チェンバロ日誌
4月11日(土)
 明日から2泊3日で長野に演奏旅行に行ってきます。 冬の間いろいろ事情が重なって練習が思うように進まなかった分、 ここ一週間は毎日毎日すごくたくさん練習してきたのですが、 そのためか今日の夕方くらいからチェンバロが実に豊かな音量で鳴り響くようになっています。 自分のためにこの楽器を作っていただいて9年になりますが、 こんなに豊かな音をこの楽器から聴くのは初めてで、 練習していてワクワクしてしまいます。 逆に言うと同じ楽器でもしばらく弾かないでいると音が貧弱になります。 やっぱり楽器は生き物ですね。
4月16日(木)
 長野での演奏会は2日間ともお客様に大変喜んでいただけました。 演奏が終わってからもしばらく感慨深げに私に話しかけてくださる方、 サインを求めてくださる方、感激のメールを下さる方・・・。 私を呼んでくださった主催者の方々に対して責任を果たせたことに安堵します。
 ですが、実は複雑な思いなのです。 演奏会は成功したといっても、演奏自体は自分では満足ではなかったからです。 外見上はミスも少なく形になったといっても、 「ここはぜひこのように弾きたい!」と思ったことができなかったのです。
 ここには重要な問題があると思います。 一つは「いい演奏といい演奏会とは一応別物」ということ。 今回のように演奏者が自分の演奏に満足でなくてもお客様が喜んでくださるのはまだ害が少ないですが、 逆(演奏者の自己満足に客席がしらけている)は不幸ですよね(私も客の立場で時々経験します)。 お客様が「いい演奏会」に求めるものは演奏の出来だけではありません。 誰にとっても何かしら新しい発見や収穫があるようなコンセプトとか、 聴き手のペースも配慮した聴きやすい選曲とか、 場の雰囲気を和ませるトークとか、 頭を悩ませて最善を尽くすべきことはたくさんあります。
 もう一つは「音楽家は何のために演奏するのか」ということ。 「プロ」とは(professionalを辞書で引けば書いてありますが)「職業の」という意味ですから、 まずは生活のためということになるでしょう。 (日本では「プロ」という言葉を「上手だ」という意味に誤解している人が多いですが、 私の定義では上手か下手かに関わらず演奏収入で確定申告している人がプロです。) しかし生活のため「だけ」に演奏するとなるとおかしなことがたくさん生じてきます。 生産効率から言えばお客様が気付かないような些細な所まで完璧を目指すのは時間と労力の無駄ということになります。 ギャラが少ない演奏会に多くの練習時間を割くのも無駄ということになります。 そしてチケットが売れそうな曲以外に取り組むのは収入チャンスの放棄ということになります。 そうやってどんなに手を抜いて効率を上げたところで、 会社勤めなどに比べれば時間当たりの収入が少ないことに変わりは無いですから、 そんなことならいっそ別の仕事に移ったほうがいいのです。 ではなぜ音楽家は生産効率が悪いと分かっていることをし続けるのかといえば、 音楽に取り憑かれていて究極を求めずにはいられないからです。 ある曲のある部分の素晴らしい解釈がひらめいて (というか天からの啓示を受けて、または音楽の守護聖人「聖チェチーリア」が囁いて、と言ってもいいですが)、 それが自分の手に入りつつあるときなど、 このまま夜を徹して練習してでも手に入れたい!という衝動を抑えるのは大変です。 どんなに金にならない非効率なことだと分かっていてもです。 だからその手に入りつつあったことが本番でできなかった時はとても残念なのです。 こんなに喜んでくださった方々にあの解釈を聴いてもらえたらどんなに喜んでくださっただろうかと思うのです。
4月19日(日)
 今日は私が主宰するヴォーカルアンサンブル・ルミネの月一回の練習がありました。 5月31日の新潟オルガン研究会で歌うパレストリーナのマドリガーレ(世俗歌曲)の歌詞対訳を、 昨日の夜から作り始めて完成したのが今朝の6時半。 2時間半ほど仮眠して練習に突入しました。 ああ眠い・・・。
 イタリア語は正直言って文法の全貌がまだ全く見えていないので苦労します。 歌詞の意味を(大意ではなく)単語一つ一つの変化形まで追求して訳しているので、 手元に英訳はあるのですがほんの参考程度にしか役に立ちません。 今日こんなに時間がかかったのは、 ある一つの名詞句が主語なのか目的語なのか分からずに、 3時間くらい辞書のいろんなところに手がかりを求めてさまよった結果です。 やっぱりテレビで「イタリア語会話」を見ていた程度では足りないですね。 ここは思い切って「イタリア語検定」を受験しようか、 と歌詞対訳を作るときにはいつも思い立つのですが、 自分の練習の時間も足りないのにどうやってそんな時間を捻出するのか? と自問自答しては結局問題を先送りしています。


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