チェンバロ奏者 八百板正己 のホームページ

チェンバロ日誌(2009年5月)

チェンバロ日誌
5月11日(月)
 今頃になって報告ですが、 連休は久しぶりに東京で実りある勉強をしてきました。 4日と5日はノルウェー人チェンバロ奏者のマスタークラスで、 4日は他の人たちが受けるレッスンを熱心に聴講し、 5日には私自身もレッスンを受けました。 最大の収穫は、私の演奏テクニックにいつの間にか忍び込んでいた癖を指摘していただき、 正しく導いてくださったことです。 思えばこの2年ほどは音楽の解釈や心の表現のことばかり考えていた気がします。 おかげで「この曲はどう弾いたらいいのか」はあまり迷わなくなって自信がついてきたのですが、 それを確実に自分の指で安定して音にできるか、という点にずっと不安が残っていたわけです。 もし演奏中にその不安が体の硬直を引き起こすとさあ大変! ほんの数秒の間に悪循環で演奏がガタガタになる危険もあります。 演奏会でそんな演奏をするわけにはいきませんから、 選曲の時にはテクニックの不安から弾きたい曲を諦めることもありました。 でも、これからは違いますよ。 いつとは申しませんが、 いずれ私の選曲がとても積極的で怖いもの知らずになっている日が来ることでしょう!
 5月6日はモンテヴェルディのマドリガーレのワークショップを聴講してきました。 2名から5名までの声楽家たち(いずれもバロックを専門に歌っているプロです)が歌うアンサンブルを、 イタリア人カウンターテノール歌手の第一人者が指導するのです。 バロック音楽の基本である歌がどれほど大切なのか、 こうしたハイレベルのレッスンを間近で聴くととても刺激になります。 それに、イタリア人の先生が各曲のはじめに歌詞を朗読するのですが、 もうそれだけで惚れ惚れと聴き入ってしまうほど音楽的なのです。 もっともっと聴きたい! どこかにイタリアの古典を朗読したCDは売っていないでしょうか?  文芸復興の流れの中で詩は古代ギリシャの弁論術にのっとって書かれました。 イタリア人の先生もそれを古代ギリシャの弁論術にのっとって朗読します。 モンテヴェルディがそれに曲を付けたやり方もやはり古代ギリシャの弁論術にのっとっています。 ですから歌う我々も古代ギリシャの弁論術にまで立ち返って考える必要があるというわけです。 その先生がおっしゃっていましたが、 「現代の一般的な声楽は声の美しさをアピールしようとするが、 当時は何よりも詩の心をアピールしようとした。 詩の表現のためには時には美しくない声さえ必要だ。」 モンテヴェルディが念頭においていた歌い方がこの21世紀に復活するためには、 つい声の美しさにばかり目がいってしまう私たち聴衆の意識も変わらないといけないのだと思いました。
5月21日(木)
 先日の日誌に書いたモンテヴェルディのマドリガーレのワークショップがあまりに楽しかったので、 このたび主催団体である日本イタリア古楽協会に加入してしまいました。 興味ある例会やマスタークラスやコンサートがたくさん予定されていても、 ここ新潟からではそう頻繁に東京までかようことはできませんが、 協会に加入していれば会報でその要旨を知ることもできます。 会から送られてきた過去の資料を順に読み始めていますが、 これからは世界最新のイタリア古楽事情が手に入るのだと思うと、 何だか急に知識欲が湧いてきてワクワクしてしまいます。
 そして今日は長岡のギャラリーmu−anで毎月おこなっている「チェンバロ演奏とお話の会」の5回目です。 予定の演奏とトークの1時間が終わるとお茶とお菓子が出てきて思い思いに余韻を楽しむのですが、 今日は余韻を通り越してとても盛り上がってしまい、 いつまでも芸術の話や人生の話が続いて私もしばし人生の先輩方の含蓄あるお話に耳を傾けました。 そこで話し合っていて気づいたことを一つ皆さんにもお伝えしたいです。 人生を仮に80年とすると年数では私はすでに折り返し地点を過ぎたわけですが、 人生経験を積むにつれて芸術に対する感性が豊かになって、 今まで聴いた同じ曲を聴いてももっと深い意味まで感じて感動するようになるので、 生涯に芸術から受ける感動の量で考えるならば折り返し地点は例えば60歳くらいになり、 42歳というのはまだ全体の4分の1とか5分の1でしかないのだと。 そう考えると「人生まだ始まったばかりだな」と非常に若返った気になりますし、 もっともっと勉強しようという気にもなります。 どうですか?いい考えだと思いませんか?
5月29日(金)
 また今頃になって報告ですが、 日曜に長岡でチェンバロ教室の発表会をしました。 生徒さんたちの熱演は毎年のようにレベルが向上して嬉しい限りです。 さらに、終演後に「去年も聴きに来た」とおっしゃる見ず知らずのお客様から、 出演者全員にと鯛焼きの差し入れが! さらに数日後にはこれも見ず知らずのお客様からお便りをいただき、 「小ぢんまりとした会場で演奏者のすぐ近くで、なまの音を聴く、 心地よい一体感に夢中になりました。 お弟子さんたちの演奏、みな感銘深いものでした。 アコースティックな音色が忘れられません。」 と嬉しい嬉しいお言葉を頂戴しました。
 私一人に出来ることはささやかなものですが、 チェンバロをきっかけにこの地で音楽の輪が少しずつ広がっていく手応えを感じます。


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