チェンバロ奏者 八百板正己 のホームページ

チェンバロ日誌(2010年5月)

チェンバロ日誌
5月2日(日)
 おととい、昨日と新潟市内各所で行われた音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ新潟」に、 急きょチェンバロ貸し出しと調律の依頼を受けて行ってまいりました。 ずいぶん前から準備されていた企画のようでしたが、 チェンバロを使う公演がすべてフランス人演奏家によるもので、 必要な情報が末端までなかなか伝わらなかったのかもしれません。 予定していた楽器だけでは足りなくなることが分かったのが本番10日前、 楽器だけでなく調律師も足りないことが明らかになったのが本番数日前、 さらに、上の「お知らせ」欄で予告した公演とは別の公演を担当することに変更になったのが前日の夕方でした。 結局私が担当することになった古楽オーケストラの公演のうち一つでは、 何と前日にチェンバロ奏者まで変更になったようです(会場間の移動とリハーサル時間がかみ合わなかったとか)。 4つもの会場でチェンバロを使い回すビッグ企画では想定外のことが次々に起こるんですね。
 何といっても嬉しかったのは、 リハーサル終了後に新進気鋭のフランス人チェンバロ奏者フランソワ・ゲリエ氏から、 あなたの調律は素晴らしいから名刺を下さいと言われたことです。 2年後に今度は単独で来日するときに電話するから、というのです。 私をコンサート調律の専門家と思って下さったのかもしれません。 私は自分が新潟在住のチェンバロ演奏家で、 スコブロネック製作のドイツ様式のチェンバロも持っていること、 次の来日でその楽器を彼が弾くチャンスがあるように願っている、と伝えました。 彼のプロフィールをみると大学で通奏低音とチェンバロ調律法の教鞭を執っているそうですから、 いつのまにか私の調律の腕は専門家からお墨付きをもらえるレベルに達していたんですね。 そういえばここ数年、自分のコンサートで調律がらみのトラブルはほとんど記憶がありません。
 地道に続けている私の活動ですが、 いつの間にか世界と接点をもつようになる、 そんな夢が膨らんだ一日でした。
5月18日(火)
 昨日はロータリークラブの会合の席で演奏してきました。 懇親会が始まる前の15分間が私に与えられた時間です。 100人弱のお客様はチェンバロをはじめて聴く方々がほとんどのようです。 会場は音響が最善とは言い難い宴会場ですし、 皆様は丸テーブルに分かれて座っていますからかなり距離もあります。 この条件下で15分だけでチェンバロの素晴らしさをお伝えするのはなかなか挑戦のし甲斐があります。 演奏への集中力もさることながら、 雰囲気を一気に盛り上げるためには選曲も構成もトークも少しの隙もあってはならないと思い、 最近の私には珍しくトークの内容をきちんと決めて臨みました。
 準備や待機の間、同じフロアのほかの会場でもさまざまな会合が行われていて、 フロアを歩いている人たちは全員大会社の役員クラスのようで、 一種異様ともいえるオーラに圧倒されそうでした。 でもここで気持ちで負けてはいけません。 私は大会社の役員ではないけれど、 そのかわりもっともっと稀に見るプロのチェンバロ演奏家なのだ、 そう思って、いつも以上に美しい姿勢 (バロック時代の王侯貴族のように、つまり今ならクラシックバレエで習う立ち姿勢) を意識して歩きました。
 さて演奏が始まると、会場全体が一曲目からすばらしい集中力で、 遠い客席の隅々にまで音が行き届くのがわかるのです。 2分か3分の小品に対しても熱心で盛大な拍手を下さいます。 そして15分の演奏が終わると共に楽器の周りに人だかりができて、 隅々まで観察したり私にいろいろ質問を下さったりと好奇心旺盛なのです(乾杯の後にもそれは続きました)。 さらに感激したのは、何人もの方から「素晴らしい演奏をありがとうございました」と言われたことです。 演奏がうまくいけば褒められることは稀ではありませんが、 主催者ではなくお客様から「感謝される」というのは滅多にあることではありません。 はたして自分はいい演奏を聴いたり美味しいものを食べたりしたときに、 褒めるだけでなく感謝の気持ちを持っただろうか? そしてそれをきちんと伝えてきただろうか? 大きな組織で重要な責任を任される方々には、 そうなるにふさわしい見習うべき徳が備わっているんだなと感じたのが、 今回の一番の収穫でした。


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